「陸の王者」誕生秘話

塾員の酒「陸の王者」誕生

 

秋も深まり朝晩はめっきり冷えこむようになった。愛酒家には、若山牧水の「白玉の歯にしみとほる秋の夜の酒はしずかに飲むべかりけれ」の歌が浮かぶ季節の到来である。確かにひとりで静かに飲む酒もよいが、気の合った昔の仲間と学生時代の思い出やお互いの近況を語り合いながら飲む酒もまた楽しい、という塾生達にぴったりの純米吟醸酒がうまれた。名つけて”陸の王者”、醸造元は栃木県今市市の(株)渡邊佐平商店、発売元は東京都足立区の(株)山二商店である。

 

この”陸の王者”が生まれたいきさつはこうである。創業が天保十三(一八四二)年という老舗の醸造業渡邊佐平商店の若主人渡邊護君と、手広く酒類卸業を営む山二商店の若主人高山芳雄君、共に昭和三十七年経済学部卒業の塾員で、ゼミも同じく平井新ゼミであった。二年前の平井ゼミOB会の折、日本酒の販売戦略について語り合って、これからは漠然と広く販売するのではなく、ターゲットをしぼった販売方法をとるべきだと意見が一致し、当時”都の西北”のネーミングで売り出した日本酒があったことから、”陸の王者”を思いついたという。商標登録の許可が今年六月におり、十月一日(数年前から清酒業界では酒の日としている)を期して発売されたが、今年は義塾体育会百年であり、渡邊佐平商店創業百五十年でもあり、”陸の王者”は所縁深い年に生まれたことになる。なお、渡邊君の大叔父にあたる渡邊萬治郎さんは、義塾野球部草創期の明治三十年代前半に捕手として活躍された塾員で、義塾が陸の王者となる礎を築いた人ともいえ、所縁は更に深いものがある。

 

先月二十五日、日吉で行われた連合三田会の模擬店でもこの酒は販売された。大方の評判は、くせが無くすっきりとした味わいということで、好評を博したようである。七百二十ミリリットル壜千二百五十円と価格も手頃だ。三田会など塾生の会合で、”陸の王者”で気炎をあげ、”若き血”を歌うのも一興かも知れない。醸造元、発売元、それぞれの電話番号をご紹介しておく。

渡邊佐平商店(醸造元)0288-21-0007

山二(発売元)  03-3607-3215

 

 

【三田評論 ‘92/11月号抜粋】

 

 

「陸の王者」販売

東京新聞2015年3月3日付朝刊